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[読みたい論文] α,β-不飽和カルボニル化合物へのアルケニルボロン酸の不斉共役付加: (チオ)尿素化合物が共触媒として機能します

Viewed: 09:23:49 in July 18, 2025

Posted: June 2, 2020

この記事を書いた人

「牧岡ふうふ堂」オーナー。博士(工学)。
酒都圏在住。
某地方の国立系工業大学でアシスタントをしていました。 専門は有機反応・金属錯体(主に希土類)・π共役系。
twitterアカウントは@makiokafufudo(お仕事用)、@ymakioka(個人用)です。

 

Keywords: organocatalysis; asymmetric synthesis; O-monoacyltartaric acid; Michael addition; thiourea; urea; Sugiura, Masaharu; 有機化学; ブログ

O-Monoacyltartaric Acid/(Thio)urea Cooperative Organocatalysis for Enantioselective Conjugate Addition of Boronic Acid (Yoshimitsu, Takuto; Kuboyama, Yukinobu; Nishiguchi, Sari; Nakajima, Makoto; Sugiura, Masaharu)
Org. Lett. 2020, 22 (10), 3780−3784. 


α,β-不飽和ケトンへの不斉マイケル付加に関する論文です。マイケル付加の求核剤はアルケニルボロン酸。

この論文のセールスポイントはチオ尿素化合物や尿素化合物がこの論文でのマイケル付加を加速するところでしょうか。

不斉触媒として酒石酸化合物が使用されています。より具体的には酒石酸の2つのヒドロキシ基の片方をアシル化、カルボキシル基の片方をエステル化したものです。酒石酸から合成していると想像できますが、片方アシル化&片方エステル化されたものとなると数種類の異性体が想定されるわけで、特定のものをどうやって作るのかなとSupporting Informationを読んでいくと、ありました。アセトンジメチルアセタールでの保護、ですか。なるほど。

酒石酸の2つのヒドロキシ基の片方をアシル化した化合物を触媒とする例はすでに報告済みのようで、さらに片方をエステル化したものを「単独で」触媒とする場合に、前報の触媒系と比較して何が良くて何が良くなかったのか、気になるところです。

そして「共触媒」としてのチオ尿素化合物や尿素化合物の添加効果。確かに反応の加速効果は認められているようで、共触媒としてどのように振舞っているのかも、本文を読んで確認したいところです。酒石酸系との水素結合により常に「1つの」触媒となっているのか、触媒サイクルの中で「2つの」触媒のひとつとして基質や反応中間体のやり取りをしているのか、ですね。

というわけで、触媒の機能を中心に反応の機構を知りたく、読みたい論文に追加しました。触媒と先に結合するのはボロン酸かカルボニル化合物かというのも(Supporting Informationにヒントあり)。

この記事を書くために作成したChemDrawファイル(.cdxml)をダウンロードできます。
ご自由にお使いください。

 

有機化学初心者向けコメント

☆尿素 (heteroatom)
NH2C(O)NH2
無機化合物から初めて合成された有機化合物。ハンドクリームなどの保湿剤として使われています。

 

 

計算終わりました

 

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