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[読みたい論文] カルボキシル基とフルオロ基が脱離するアルキル-アリールカップリング

Viewed: 21:51:59 in June 25, 2025

Posted: May 7, 2021

Keywords: Ir; DMSO; carbon–carbon bond formation; fluoroarene; VLPC; Ritter, Tobias; 有機化学; ブログ

Decarboxylative Polyfluoroarylation of Alkylcarboxylic Acids (Sun, Xiang; Ritter, Tobias)
Angew. Chem. Int. Ed. 2021, 60 (19), 10557−10562.
URL (Doi): 10.1002/anie.202015596

 


広く見ればフッ素の化学に関する論文のようです。論文のタイトルに沿えば、脱カルボキシル化を伴うポリフルオロアリール化。

イリジウム光酸化還元触媒、青色光照射下で進行する、カルボン酸とポリフルオロアレーン反応です。構造は下の通り。


本文をラフに読みしました。第一印象は「イントロが長い!」。ポリフルロアレーンがラジカル受容体として機能するというのは昔から知られていて、ラジカルを取り込んだ後にラジカル同士のカップリングが起きるのが常だったとか。そこに光酸化還元触媒を介在させてラジカルをアニオンに還元(イリジウムは酸化される)、フッ化物イオンを脱離させることにより、ホモカップリングを回避できる。これがこの論文のこんせぷとであり、セールスポイントかなと思いました。

「ラジカル」の源はアルカンカルボン酸。フッ化物イオンか何かしらの塩基で水素をプロトンとして引っこ抜いてアニオンにして、イリジウムに酸化(イリジウムは還元される)されて脱炭酸、アルキルラジカル発生という流れ。

んじゃあその目論見通りの経路で反応が進んでいるのか、そのあたりの検証も間接的になされていて、カルボン酸よりも反応しやすいノルボルネンや1,3,5–トリメトキシベンゼンを共存させて脱カルボキシル化が阻害されるかを確認している旨が、本文中に書かれています。

気になったのは基質のチョイス。アルカンカルボン酸についてはたくさん検討されているのですが、アレーンカルボン酸についてはどうなのか。1,3,5–トリメトキシベンゼンを共存させてアリール-ポリフルロアリールカップリングが起きているのですから同類の化合物が生成してもいいような気がします。既に報告例があるのからなのか、アレーンでできるのだからわざわざせんでも、なのか、その辺りの背景を知りたいので、読みたい論文に追加しました。後でじっくり読みたいと思います。

この記事を書いた人

「牧岡ふうふ堂」オーナー。博士(工学)。
酒都圏在住。
某地方の国立系工業大学でアシスタントをしていました。 専門は有機反応・金属錯体(主に希土類)・π共役系。
twitterアカウントは@makiokafufudo(お仕事用)、@ymakioka(個人用)です。

 

 

 

計算終わりました

CAS-RN: 2587-00-0
Chemical formula: C5H3Cl2NO
Molecular weight: 163.99
HOMO (eV): –6.179
LUMO (eV): –1.430
Dipole moment (D): 4.802231

 

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