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[読みたい論文] アレーンと小環状アレンを芳香環をくっつけます

Viewed: 02:32:40 in July 6, 2025

Posted: July 2, 2021

Keywords: Pd; DavePhos; carbon–carbon bond formation; asymmetric synthesis; Garg, Neil K.; 有機化学; ブログ

Palladium-Catalyzed Annulations of Strained Cyclic Allenes (Kelleghan, Andrew V.; Witkowski, Dominick C.; McVeigh, Matthew S.; Garg, Neil K.)
J. Am. Chem. Soc. 2021, 143 (25), 9338−9342.
URL (Doi): 10.1021/jacs.1c04896

 


アレーンとアレンの反応に関する論文のようです。

反応スキーム中のDavePhosの構造式は下の通り。酢酸パラジウムとDavePhosからなる触媒の存在下でハロゲン化アリールとアレンの炭素-炭素結合形成を経る環化を行なった、これが論文のメインなのだろうと思われます。


取り扱われているアレンは環状のものでしかも環サイズが小さい。これが論文のセールスポイントに関わるのは間違いないでしょう。小環状アルキンやベンザインもそうですが、小環状アレンも構造上不安定で反応性に富むのでストックしておくことができない。そんなわけで何かしらの前駆体から化学的に発生させるのが常套手段です。この論文も例外ではなく、下のような手法、つまり、シリル基とOTf基を持つ化合物とフッ化セシウムから小環状アレンを反応容器の中で作っています。そんなわけでGraphical Abstractの通りの反応ではないことには要注意です。


容器内で小環状アレンを発生させているがゆえに気になるのが反応機構。小環状アレンが安定であれば遷移金属触媒にありがちな酸化的付加/挿入/配位子交換/還元的脱離となるのでしょうが、本当に小環状アレンが反応に関わっているのか、これを疑わずにはいられません。例えばHiyama–Hatanakaカップリングなど、アレン前駆体の官能基が関わる遷移金属触媒下での反応に類似した機構とか、別ルートで反応が進んでいるのではと。

もし論文の要旨の通りの反応が起きているのであれば、ハロゲン化アリールとパラジウムの反応が速くて小環状アレンの発生速度が極めて遅いとか、いろいろ想像できたりもします(それはそれで重合やホモカップリングの可能性が)。著者さんたちがどのような反応機構を提唱しているのか気になりますので、読みたい論文に追加です。

この記事を書いた人

「牧岡ふうふ堂」オーナー。博士(工学)。
酒都圏在住。
某地方の国立系工業大学でアシスタントをしていました。 専門は有機反応・金属錯体(主に希土類)・π共役系。
twitterアカウントは@makiokafufudo(お仕事用)、@ymakioka(個人用)です。

 

 

 

計算終わりました

CAS-RN: 13826-27-2
Chemical formula: C12H8B2O4
Molecular weight: 237.81
HOMO (eV): –6.179
LUMO (eV): –1.123
Dipole moment (D): 0.000610

 

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