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[読みたい論文] 玉尾酸化への突破口: テトラアルキルシランのケイ素-炭素結合を高原子価ヨウ素で切断します

Viewed: 18:58:23 in June 25, 2025

Posted: January 18, 2021

Keywords: Si; I; Matsunaga, Shigeki; Tamao-Fleming oxidation; Matsunaga, Shigeki; 有機化学; ブログ

Chemoselective Cleavage of Si–C(sp3) Bonds in Unactivated Tetraalkylsilanes Using Iodine Tris(trifluoroacetate) (Matsuoka, Keitaro; Komami, Narumi; Kojima, Masahiro; Mita, Tsuyoshi; Suzuki, Kimichi; Maeda, Satoshi; Yoshino, Tatsuhiko; Matsunaga, Shigeki)
J. Am. Chem. Soc. 2021, 143 (1), 103−108.

 


酸化的ケイ素-炭素切断に関する論文のようです。

要旨テキストにあるように、有機ケイ素化合物のケイ素-炭素結合切断を経る有機反応というのは多種類あるわけなのですが、テトラアルキルシラン、つまりけいそ原子に結合しているのが4つの原子が全てsp3炭素である化合物というのは反応に乏しく(アリルシランとかは別ですが)、何かしらの切断手法の開発にはいろんな意味で価値のあるものなのだと思います。

おそらくこの論文のセールスポイントはそんなツールのひとつであり、3価のヨウ素化合物で酸化的に炭素-ケイ素結合を切断する手法というものなのでしょう。反応に使用されているヨウ素化合物は下のような方法で合成された化合物。Graphical Abstractにはこの化合物でとテトラアルキルシランを反応させるとシラノールのトリフルオロ酢酸エステルになるとあります。


シラノールのトリフルオロ酢酸エステルのような構造になれば、過酸化物でさらに酸化すれば容易にさらなるケイ素-炭素が切断できるようになり、最終的にはアルコールが生成するようになる、と。

できなかったテトラアルキルシランの玉尾酸化が可能になる、ということですね。

気になったのはテトラアルキルシランのどのケイ素-炭素結合が切断されるのか、そして、切り離されたアルキル基の成れの果て。この段階で玉尾酸化と同じくアルコール(又はアルコールの鳥フルオロ酢酸エステル)が生成しているのではと思ったりもしましたが、他の種類の化合物かも知れず、実際のところどうなのかな、と。

つまり、2ステップ目の酸化反応なしでもいんじゃないか、と。もしかしたらヨウ化アルキルか。

反応の位置付けを含め、このへんについて知りたいので、読みたい論文に追加です。

この記事を書いた人

「牧岡ふうふ堂」オーナー。博士(工学)。
酒都圏在住。
某地方の国立系工業大学でアシスタントをしていました。 専門は有機反応・金属錯体(主に希土類)・π共役系。
twitterアカウントは@makiokafufudo(お仕事用)、@ymakioka(個人用)です。

 

 

 

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計算終わりました

 

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