[むりくり計算] シクロヘキシルカチオンのどちらの立体異性体が安定かを比べてみました
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Posted: November 17, 2021
Keywords: cyclohexane; むりくり計算; 有機化学; ブログ
「牧岡ふうふ堂」オーナー。博士(工学)。
酒都圏在住。
某地方の国立系工業大学でアシスタントをしていました。
専門は有機反応・金属錯体(主に希土類)・π共役系。
twitterアカウントは@makiokafufudo(お仕事用)、@ymakioka(個人用)です。
基礎的な有機化学の教科書では取り扱われていないのかも知れませんが、シクロヘキシルカチオンの2つの立体異性体について、どちらが安定なのかむりくりに計算しました。個人的には予想外の結果でした。信じるか信じないかはあなた次第。
GAMESSを使って、クラシックでイージーなB3LYP/6-31G(d)で。
上の図のように、シクロヘキシルカチオンには2つの立体異性体があります。Aはアキシャル位には水素原子があってエクアトリアルには空のp軌道、Bはその反対でアキシャル位には空のp軌道があってエクアトリアルには水素原子。
入力ファイルの中身は省略します。最適構造での振動解析も行っており、虚の振動数がないことも確認済みですが、その辺りのデータも略します。
得られたAの最適構造。シクロヘキサン環が少し歪んでいます。具体的には陽イオンになってる炭素が中性のものよりも環の内側にあり、結合している1つの水素原子と2つの炭素原子と陽イオンの炭素自身の4原子が同一平面にあります。
一方のBの最適構造。上下逆さまにしてしまいましたが、こちらもシクロヘキサン環が少し歪んでいます。Aとは異なり、具体的には陽イオンになってる炭素が中性のものよりも環の外側にあります(上下につぶされている)。Aと同様、4原子が同一平面にあります。
ではどちらがより安定なのか、ですが、
November 15, 2021
[読みたい論文] ケイ素原子にくっついているベンゼン環が炭素原子へ移動するPrins反応"up to complete selectivity"とは。
Org. Lett. 2021,
23 (21), 8385−8389.
先日紹介した論文にもありましたように、シクロヘキサン環中の炭素陽イオンの空のp軌道はエクアトリアル方向(Bと同じ)にある中間体構造が提唱されているのを時々見かけますし、その論文では炭素陽イオンに隣接する炭素-アキシャル水素のσ結合が超共役に参加している図が描かれていましたので、
ギブスエネルギーはBの方が低いと思っていました。
ところが計算結果は予想外で、Bの方が+2.4 kJ/mol高い。つまりAの方が安定、と。
ちなみにですが、AのLUMOは炭素-炭素σ結合も関与しているっぽいです。電子の入っていない軌道が安定化に寄与することはないとは思いますが。
一方のBのLUMOはというと、炭素-水素σ結合、アキシャルっぽくないぞ。
というわけでこの結果、信じるも信じないもあなた次第。
読みたい論文シリーズ− 2021年4Q読みたいけと読んでいない論文を、構造式を描きながら紹介します(2021年10〜12月)。
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4OやH14などの分子構造をむりくり計算しました。信じるも信じないもあなた次第。
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