[配向性] Friedel–Craftsアルキル化反応の中間体についてどの構造が安定か計算で調べました
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Posted: November 29, 2020
Keywords: o-xylene; m-xylene; p-xylene; Friedel–Crafts; 有機化学; ブログ
「牧岡ふうふ堂」オーナー。博士(工学)。
酒都圏在住。
某地方の国立系工業大学でアシスタントをしていました。
専門は有機反応・金属錯体(主に希土類)・π共役系。
twitterアカウントは@makiokafufudo(お仕事用)、@ymakioka(個人用)です。
教科書での説明では求電子剤が置換ベンゼンと反応して生成するカチオンの安定性が位置選択性に寄与している旨が書かれています。本当にそうなのか、トルエンとメチルカチオンから生成するカチオン種のDFT計算でGibbs自由エネルギーを出してむりくりに確かめることにしました。B3LYP/6-31G(d),,単分子,298 Kの条件下でです。
中間体の安定性じゃなくて遷移状態で比べないといけないのではと色々トライしましたが、遷移状態は見つからず、試した全てのケースで中間体への見事なフリーフォールでした。フリーカチオンとして計算したのがまずかったか。
フリーフォールならintermediate complexを考えなくてもいいからトルエンの芳香族炭素の電荷とか考えなくてもいいよね(違う)
トルエン分子中のベンゼン環の
o-位にメチルカチオンが付加したもの(1,2-Me
2C
6H
4)の構造がこちら。
同じく
m-位に付加したもの(1,3-Me
2C
6H
4)。
p-位に付加したもの(1,4-Me
2C
6H
4)。
ついでだから
ipso-位に付加したもの(1,1-Me
2C
6H
4)も構造を最適化しました。
付加したメチル炭素や付加した炭素原子に結合している水素原子の結合がベンゼン環からどのくらい立ち上がっているかは以下の通りです。数値はねじれ角。
| H–C–C–Me | H–C–C–H |
1,2- | 61.9º | 50.6º |
1,3- | 64.1º | 48.5º |
1,4- | 63.4º | 50.1º |
1,1- | 59.2º 57.5º | |
ではどの構造が安定なのかですが、Gibbs自由エネルギーを比較すると以下のようになりました。
| ΔG (kJ/mol) |
1,2- | +7.6 |
1,3- | +18.3 |
1,4- | 0 |
1,1- | +41.5 |
ipso-位に付加したもの(1,1-)はさておき、最も安定な分子は
p-位に付加したもの(1,4-)でした。その次が
o-位に、さらにその次が
m-位に付加したもの。というわけで、計算上のカチオン中間体の安定性は
o-,
p-配向性とは矛盾しない結果に。
o-位と
p位ではどちらが優先されるのか、実験値はどんなんだろう。ニトロ化のものは簡単に見つかるのですが。
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