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エチレンと二酸化炭素からラクトンができる反応について計算しました

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Keywords: ethylene; carbon dioxide; β-propiolactone; 有機化学; ブログ

Posted: October 10, 2020

この記事を書いた人

「牧岡ふうふ堂」オーナー。博士(工学)。
酒都圏在住。
某地方の国立系工業大学でアシスタントをしていました。 専門は有機反応・金属錯体(主に希土類)・π共役系。
twitterアカウントは@makiokafufudo(お仕事用)、@ymakioka(個人用)です。

 


この間論文の要旨を眺めていて、こんな反応見たことないなと思いました。エチレンと二酸化炭素からラクトンが生成する反応、[2+2]環化付加です。

熱的に許容なのかも全く考えもせず、遷移状態をむりくりにDFT計算しました。例によって例の如く、古典的なB3LYP/6-31G(d)。

鞍点探索はあっさりできました。虚の振動数は–883.9 cm–1。構造は下の通りで、二酸化炭素分子が折れ曲がっています。


原系と遷移状態、生成系の代表的な原子間距離は以下の通りです(単位はÅ)。遷移状態でのエチレンと二酸化炭素の距離ですが、炭素-酸素の方は2.074 Åで、炭素-炭素のは1.848Åです。反応が進むにつれ、二酸化炭素のC=O結合、エチレンのC=C結合の距離は長くなっていきます。

ちなみに二酸化炭素のC=O結合の伸縮振動(未補正値)は2435 cm–1で、生成物のは1944 cm–1でした。


気になるこの反応のエネルギー障壁ですが、原系と遷移状態の差が+233.5 kJ/mol、原系と生成系の差が+75.9kJ/molで、反応は吸熱ということになります。これらの値の大小の議論については詳しい方にお任せします。個人的にはエチレン同士の反応が気になるところです。


 

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