[むりくり計算] シクロアルカンのひずみエネルギーがどのくらいなのかを適当に計算しました
Viewed: 21:41:35 in June 25, 2025
Posted: November 29, 2021
Keywords: cyclohexane; cyclopentane; cyclobutane; cyclopropane; むりくり計算; 有機化学; ブログ
「牧岡ふうふ堂」オーナー。博士(工学)。
酒都圏在住。
某地方の国立系工業大学でアシスタントをしていました。
専門は有機反応・金属錯体(主に希土類)・π共役系。
twitterアカウントは@makiokafufudo(お仕事用)、@ymakioka(個人用)です。
有機化学の教科書に必ず載っているシクロアルカンの歪みの話、教科書に書いてあることに矛盾がないか知りたくて、無理くりに計算してみました。
今となっては古典的なB3LYP/6-31G(d)。GAMESS使いました。
計算結果で比較するためには分子の原子数を揃えておかなくてはと思い、メチルシクロヘキサン(C
7H
14)を基準に、エチルシクロペンタン、
n–プロピルシクロブタン、
n–ブチルシクロプロパン分子の構造最適化を行った後に振動解析をして、得られたそれぞれのギブスエネルギー(295 K)を比較しました。
各分子の入力ファイルの中身や最適化構造とかは省略します。メチルシクロヘキサンについてはメチル基をエクアトリアルに配置したものについて計算しています。
最もギブスエネルギーが低いのはメチルシクロヘキサンで、最も高いのが
n–ブチルシクロプロパンでした。メチルシクロヘキサンとエチルシクロペンタンのエネルギー差、そして
n–プロピルシクロブタンと
n–ブチルシクロプロパンのエネルギー差はあまり大きくなく、エチルシクロペンタンと
n–プロピルシクロブタンのエネルギー差が大きいことがわかります。この辺りは教科書にある記述と矛盾はなさそうです。
メチルシクロヘキサンと
n–ブチルシクロプロパンのエネルギー差がシクロヘキサン基準のシクロプロパン骨格の歪みエネルギーに相当するとすれば(ええんかいな)、その値は95.2 KJ/molで、Wikipediaにある値は115.4kJ/molですから、それほど間違ってはないかと。
シクロアルカンの構造異性体のひとつがアルケン。というわけで原子数が同じアルケンを基準に、シクロアルカンの歪みを見積もってみました。アルケンには末端アルケンと内部アルケンがありますので、直鎖のものについてそれぞれいくつか比較のために計算しました。
シクロプロパンとシクロブタンについては、比較のために計算した末端アルケンよりもギブスエネルギーが高く、不安定であるという結果が得られました。シクロブタンの比較のために計算したアルケン、2–ブテンの方が1–ブテンよりも安定という結果に(教科書と矛盾せず)。
一方シクロペンタンとシクロヘキサンですが、これらは対応するアルケンよりもギブスエネルギーが低いことがわかりました。エントロピー効果というやつでしょうか。
アルケンとの比較においても、シクロアルカンの歪みの度合いは教科書と矛盾なさそうです。
あわせてどうぞ
読みたい論文シリーズ− 2021年4Q読みたいけと読んでいない論文を、構造式を描きながら紹介します(2021年10〜12月)。
むりくり計算シリーズH
4OやH14などの分子構造をむりくり計算しました。信じるも信じないもあなた次第。
November 15, 2020
ジメチルシクロヘキサンのどの構造が安定か計算で調べましたメチル基同士間の距離か結合の方向か。
July 14, 2020
ブテンの4つの異性体の中でどれが一番安定か計算しました教科書にも載っているアルケン異性体の熱力学的安定性