Archive|Nanoniele|MakiokaFufudo

 

[読みたい論文] アルケンからアルケニルスルホニウム塩を合成していろんな反応に使います

Viewed: 12:01:21 in July 4, 2025

Posted: March 25, 2020

この記事を書いた人

「牧岡ふうふ堂」オーナー。博士(工学)。
酒都圏在住。
某地方の国立系工業大学でアシスタントをしていました。 専門は有機反応・金属錯体(主に希土類)・π共役系。
twitterアカウントは@makiokafufudo(お仕事用)、@ymakioka(個人用)です。

 

Keywords: C–H bond activation; Mizoroki–Heck reaction; Sonogashira coupling; Negishi coupling; thianthrene; thianthrene S-oxide; inverse-electron-demand hetero-Diels–Alder reaction ; 読みたい論文シリーズ; Ritter, Tobias; 有機化学; ブログ

Regio‐ and Stereoselective Thianthrenation of Olefins To Access Versatile Alkenyl Electrophiles (Chen, Junting; Li, Jiakun; Plutschack, Matthew B.; Berger, Florian; Ritter, Tobias)
Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59 (14), 5616−5620.


チアントレンS–オキシドとアルケンの反応によるアルケニルスルホニウム塩の合成と反応に関するオープンアクセス論文です。

上の反応スキームにあるように、反応に使用しているのは基質のチアントレンS–オキシドとアルケン、脱水剤の無水トリフルオロ酢酸、生成するスルホニウムカチオンのカウンターアニオンとなる強酸のトリフルオロメタンスルホン酸又はテトラフルオロホウ酸。スルホキシドからスルホニウム塩を作る典型的な手法であるとは思います(個人的に知ってるヨードニウム塩合成と共通するもの)。

2ステップ目で炭酸水素イオンによるアルケン水素の引き抜きをしています。通常なら起こり得ないのですが、アルケンとチアントレンS–オキシドのヘテロDiels–Alder反応により生成する中間体が歪んだ構造であることが良かったようで。酸–塩基反応(というかE2脱離)をC–H結合活性化と称していいのかはアレですが、形式的にはそういうことなのでしょう。

んで、生成したアルケニルスルホニウム塩、ハロゲン化アルケニル化合物と同様に炭素–炭素結合形成反応などが可能ですし、論文のタイトルにあるように、求電子剤としても利用可能。どちらもスルホニウム塩の性質としては知られたものではありますが、デモンストレーションによる確認というか、そういうのが本文中でなされています。


反応の大体の様相はわかりました。ヘテロDiels–Alder反応のところのメカニズムや構造について詳しく知りたいので、読みたい論文に追加です。あとでじっくり読みたいと思います。

この記事を書くために作成したChemDrawファイル(.cdxml)をダウンロードできます。
ご自由にお使いください。

 

有機化学初心者向けコメント

☆スルホニウムイオン (sulfonium ion)

狭い意味ではH3S+で表される陽イオン。
広い意味ではH3S+の水素原子が有機基に置き換わった陽イオン。
水と水素イオンから生成するオキソニウムイオン(H3O+)の硫黄版で、性質にも共通するものがある。

 

計算終わりました

 

あわせてどうぞ

読みたい論文シリーズ− 2020年1Q
読みたいけと読んでいない論文を、構造式を描きながら紹介します(2020年1〜3月)。

2020年1Qの記事一覧 2020年1Q
お仕事関係の記事のリストです(2020年1〜3月)。

 

[読みたい論文] アルキンのブロモアリール化でβ-ブロモスチレンを作ります
NMRのFIDデータあります。
ACS Catal. 2020, 10 (6), 3773−3777.

[読みたい論文] リン原子上の芳香環をあっちの方によけといて別の芳香環をくっつけます
C–H結合活性化とC–P結合切断。
Org. Lett. 2020, 22 (6), 2187−2190.

[読みたい論文] 一酸化炭素を使わない、ハロゲン化アリールからのアレーンカルボキシアミド合成
ジヒドロピリジン化合物がカルバモイル源です。
Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59 (13), 5248−5253.

[読みたい論文] 鏡像体選択的な「ふつうの」アルドール縮合です
グラムスケールの反応もいけます。
Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59 (13), 5359−5364.

[読みたい論文] テトラヒドロフランのあまり目立たない方のC–H結合を活性化します
Hartwig。Ir触媒の配位子の置換基が重要。
ACS Catal. 2020, 10 (5), 3415−3424.

[読みたい論文] エステル源がエステルである反応
エステル源の成れの果ては?
ACS Catal. 2020, 10 (5), 3490−3494.

[読みたい論文] リン原子もBrook転位
プロパルギルアルコールとアルデヒド、ヨウ素の三成分カップリング
Org. Lett. 2020, 22 (5), 2105−2110.

[読みたい論文] ヘテロアレーンのC–Hメタロ化を経て官能基を導入します
ZnとかMgとかLiとか
Org. Lett. 2020, 22 (5), 1899−1902.

[読みたい論文] コバルトピンサー錯体がアルデヒドの脱水素触媒として機能します
生成するカルボン酸の酸素源は?
Org. Lett. 2020, 22 (5), 1852−1857.

[読みたい論文] 系中でエナミンを作って特定のC–H結合を活性化します
基質を選ぶ反応かも知れない
Org. Lett. 2020, 22 (5), 1807−1812.

 

注目のWebコンテンツ

がん全ゲノムにおけるマイクロサテライト不安定性の解明 -がん免疫療法の適応診断や遺伝性腫瘍診断に有効-
(理化学研究所)
https://www.riken.jp/press/202...

生体由来の
(村井君のブログ)
http://murai-kun.cocolog-nifty...

新型コロナ/銅相場、軟調推移 鉱山操業縮小も景気後退警戒
(日刊工業新聞)
https://www.nikkan.co.jp/artic...

商品トレンド/塩ビ樹脂 出荷前年割れ、5カ月連続
(日刊工業新聞)
https://www.nikkan.co.jp/artic...

NY金、堅調推移 FRB無制限緩和で
(日刊工業新聞)
https://www.nikkan.co.jp/artic...

腕上げラクラク、アシストスーツ 東海大、22年めど製品化
(日刊工業新聞)
https://www.nikkan.co.jp/artic...

材料進化の最前線 NIMS最新成果(36)スピネルバリア
(日刊工業新聞)
https://www.nikkan.co.jp/artic...

高血圧、最も寿命を縮める原因 阪大など、健康リスクで順位
(日刊工業新聞)
https://www.nikkan.co.jp/artic...

カナダで魚化石、胸びれ先端「指」に 両生類へ進化途中?
(日刊工業新聞)
https://www.nikkan.co.jp/artic...

酸化還元電位の制限を乗り越えた光触媒的C–Hアミノ化反応 ~photoredox触媒の限界を突破しろ!~
(有機化学論文研究所)
https://moro-chemistry.org/arc...

サケの骨に刻まれた大回遊の履歴 ―“同位体”が解き明かす、知られざる海での回遊ルート―
(北海道大学)
https://www.hokudai.ac.jp/news...

日本新産となる水草の雑種「ツガルモク」を発見 - 希少種ガシャモクと近縁種エゾヒルムシロの雑種 -
(北海道大学)
https://www.hokudai.ac.jp/news...

シリコン量子ビットの高精度交換操作を実現 -シリコン量子コンピュータの高忠実度2量子ビット操作に指針-
(理化学研究所)
https://www.riken.jp/press/202...

優れた発光特性を有するキラルな多環式芳香族炭化水素の合成に成功 次世代3Dディスプレイ等への応用に期待
(早稲田大学)
https://www.waseda.jp/top/news...

チタンがそのままで接着材に!全く新しい生体軟組織用接着材を開発
(岡山大学)
https://www.okayama-u.ac.jp/tp...

【研究発表】二重ドーナツ型の超分子コイル 〜磁気に応答して電気が流れる巨大なチオフェン環状分子〜
(首都大学東京)
https://www.tmu.ac.jp/news/top...

原子力施設の「ゆれ」をとらえる -より高精度な耐震安全性評価のための大規模観測システムを構築-
(日本原子力研究開発機構)
https://www.jaea.go.jp/02/pres...

70万人のゲノムによるリスク予測で、 高血圧・肥満が現代人の寿命を最も縮めていることを特定~生まれつきの遺伝情報を使って、誰でも治療可能な健康要因を解明する~
(東京大学)
http://www.k.u-tokyo.ac.jp/inf...

【プレスリリース】二重ドーナツ型の超分子コイル
(横浜国立大学)
https://www.ynu.ac.jp/hus/koho...

二重ドーナツ型の超分子コイル -磁気に応答して電気が流れる巨大なチオフェン環状分子-
(理化学研究所)
https://www.riken.jp/press/202...

マイクロ波を効果的に利用できる薄膜構造を発見 酸化鉄電極による水の酸化反応促進機構を解明
(東京工業大学)
https://www.titech.ac.jp/news/...

リボソームを試験管内で自由に再構成 -リボソーム小サブユニットの包括的な解析が可能に-
(理化学研究所)
https://www.riken.jp/press/202...

第78回―「膜タンパク質の分光学的測定」Judy Kim教授
(Chem-Station)
https://www.chem-station.com/i...


学問・科学ランキング 科学ランキング 自然科学ランキング 化学ランキング