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[読みたい論文] 水素ガスも金属触媒も要らない脱ベンジル反応

Viewed: 05:25:32 in July 1, 2025

Posted: February 7, 2020

Mild Environment-friendly Oxidative Debenzylation of N-Benzylanilines Using DMSO as an Oxidant (Yoshinaga, Tatsuro; Iwata, Takayuki; Shindo, Mitsuru)
Chem. Lett. 2020, 49 (2), 191−194.

Keywords: TsOH; DMSO; TLC; 読みたい論文シリーズ; Shindo, Mitsuru; 有機化学; ブログ


Graphical Abstractでは、ベンジルアミンの酸化的分解によるアミンとアルデヒドの生成ですが、要旨テキストも含めると、イミンに限らないベンジル基の脱保護に関する論文のようにも見えます。ベンジル保護基を外す代表的な方法といえばPd/H2ですが、この論文の方法だと水素ガスも金属触媒も不要、これがこの論文のセールスポイントなのでしょう。

Supporting Informationを読んでいくと、基質のベンジルアミンを合成するためにアミンとアルデヒドを水素源の存在下で反応させて合成しています。論文中の反応と合わせれば、アミンとアルデヒドからアミンとアルデヒドを作る謎なことになるのですが、反応例を示すためのものですので、これはこれで合理的。条件の検討に際する反応のモニタリングと収率の算出法がちょっと気になりましたが、反応が綺麗であれば、こういうやり方でもいいのかなと。


気になったのアミンとアルデヒドが生成する過程での反応中間体。悩ましいのが希塩酸で処理する反応操作が含まれているところ。想定される反応中間体として最初に思い浮かぶのがイミン。つまり、酸化反応を終えた直後はイミンで、希塩酸下で加水分解してアミンとアルデヒドにしているのかなとも思えるなあと、容姿テキストを眺めるとそう書いてありました。反応のモニタリングの際にも、反応溶液を希塩酸で処理してからとかなと思ったり。ただ、希塩酸での処理前にアミンとアルデヒド(カルボン酸にも)になっていることも考えられるわけで、その辺りのことを著者らがどう議論しているのか知りたいので、読みたい論文に追加しました。

反応機構も気になるところです。特にジメチルスルホキシドの役割。

 

有機化学初心者向けコメント

☆脱水素反応も酸化反応

酸化反応、化合物の分子中の酸素原子の数が増えるイメージを持たれがちです。
実際に酸素原子が増える酸化反応もたくさんありますが、酸素原子の数が増えない酸化反応もあります。
例えばこの記事で紹介した論文の、下のような脱水素反応も、酸化反応の一つです。


この記事を書いた人

「牧岡ふうふ堂」オーナー。博士(工学)。
酒都圏在住。
某地方の国立系工業大学でアシスタントをしていました。 専門は有機反応・金属錯体(主に希土類)・π共役系。
twitterアカウントは@makiokafufudo(お仕事用)、@ymakioka(個人用)です。

 

 

計算終わりました

 

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