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[読みたい論文] リン化合物を使ってスルホン酸アミドをスルフィン酸にします

Viewed: 08:01:55 in July 11, 2025

Posted: November 26, 2019

Reductive Cleavage of Secondary Sulfonamides: Converting Terminal Functional Groups into Versatile Synthetic Handles (Fier, Patrick S.; Kim, Suhong; Maloney, Kevin M.)
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141 (46), 18416−18420.

Keywords: HMPT; HMPA; BTMG; TFA; ethyl benzoylformate; Maloney, Kevin M.; 読みたい論文シリーズ; 有機化学; ブログ


鍋物の季節。

スルホン酸アミドの硫黄−窒素切断反応に関する論文のようです。Graphical Abstractでは分かりにくいですが、単純な切断反応ではなくて、論文のタイトルにもありますが還元反応(脱酸素反応)でもあります。

上の反応スキームにもありますが、「素」の生成物はスルフィン酸です。Graphical Abstractにあるような硫黄−炭素結合形成反応を経るスルホンの生成は、スルフィン酸とハロゲン化アルキルの反応により生成するものですね。

要旨だけを見ていると単純な反応に思えそうですが、実際には多種類の反応剤が必要なようです。P(III)として使用されているのはヘキサメチル亜リン酸トリアミド(HMPT)でして、確かにこれは酸素取りの役割を果たすものです。HMPTの成れの果ては単純に考えればヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)で、これ、取り扱い要注意の化合物ではあります。リン酸にぶっ壊れるのかもですが。

その他に使われている反応剤はベンゾイルギ酸エチルとグアニジン化合物(BTMG、矢印の下の化合物)。ややこしいです。何がややこしいって、HMPTの3価のリン原子がどうなって5価になるのかです。Supporting Informationには、BTMGを反応させる前の段階ではN-スルホニルフェニルグリシン中間体ができているとあるんですよね、スルホニル。つまりこの段階では基質のSO2部分はまだ反応に関与していないわけです。フェニルグリシンというのは「ベンゾイルギ酸エチルの成れの果て」なのですが、酸素原子がまだ残っているかどうかもわからない。

ごちゃごちゃ書きながらあれこれ考へるよりも本文読んで確認した方が速そうなので、読みたい論文に追加です。

この記事を書いた人

「牧岡ふうふ堂」オーナー。博士(工学)。
酒都圏在住。
某地方の国立系工業大学でアシスタントをしていました。 専門は有機反応・金属錯体(主に希土類)・π共役系。
twitterアカウントは@makiokafufudo(お仕事用)、@ymakioka(個人用)です。

 

 

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