Archive|Nanoniele|MakiokaFufudo

 

[読みたい論文] はじめてのネプツニウム錯体

Viewed: 10:41:19 in July 2, 2025

Posted: October 16, 2019
[有機化学] [ブログ]

Synthesis and Utility of Neptunium(III) Hydrocarbyl Complex (Myers, Alexander J.; Tarlton, Michael L.; Kelley, Steven P.; Lukens, Wayne W.; Walensky, Justin R.)
Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58 (42), 14891−14895.

Keywords: Np; DME; THF; Walensky, Justin R.


有機化学に慣れすぎていると一瞬混乱する元素記号、Np。カタカナ元素名はネプツニウム。最も軽い超ウラン元素(原子番号92のウランよりも重い元素)です。基本的に超ウラン元素は人工的に作り出されるものですが、ネプツニウム239は天然にもわずかに存在します。

そんなの有機ネプツニウム化合物を合成したというのが本論文のメインの部分であると予想できますが、論文のセールスポイントは要旨にある通り、「超ウラン元素の有機金属化合物の構造を初めて明らかにした」というものでしょう。Angew Chem. Int. Ed. (応用化学国際版)にふさわしい論文かはさておき、インパクトとしては掲載に十分でしょう。

当然ではありますが、Supporting Informationにはネプツニウム237の取り扱いに関する注意が記載されています。半減期214万年とはいえ、放射性核種であることには変わりないので。Graphical Abstractに記載のネプツニウム化合物は4価のNpCl4(dme)2から合成していますが、得られたネプツニウム化合物の価数が3。どのような還元反応が起こっているのかとか、還元剤の成れの果てがどうなったのかとか、色々気になるところです。

やっぱりなと思ったのが1H NMRスペクトル。+20ppmとか−60ppmとか、ふつうの有機化合物では現れない領域にシグナルが観測されています。ランタノイド錯体もそうですが、シグナル出現領域の非常識さゆえに常磁性の金属化合物のスペクトル測定には慎重さが求められますね。

要旨にはある「はじめての」が論文のタイトルに入っていない理由が気になるので、読みたい論文に追加です。シンプルさを求めたのか、達成できなかった何かがあるのか。あとη4てどんな構造かいな。

この記事を書いた人

「牧岡ふうふ堂」オーナー。博士(工学)。
酒都圏在住。
某地方の国立系工業大学でアシスタントをしていました。 専門は有機反応・金属錯体(主に希土類)・π共役系。
twitterアカウントは@makiokafufudo(お仕事用)、@ymakioka(個人用)です。

 

 

きょうのどうぶつ

ここの画像を使用しています。

にわかせんべい。

 

計算終わりました

 

あわせてどうぞ

2019年の記事一覧
お仕事関係の記事のリストです(2019年)。

読みたい論文シリーズ− 2019年4Q
読みたいけと読んでいない論文を、構造式を描きながら紹介します(2019年10〜12月)。

 

[読みたい論文] 位置も幾何異性も制御できるシリルエノールエーテル合成
頑張れば触媒的合成にできるか。
Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58 (42), 14995−14999.

[読みたい論文] アリールトリフルオロメチルスルホンでSuzuki−Miyauraカップリング
トリフルオロメチルスルホニル基の脱離能はどの程度か。
Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58 (42), 14959−14963.

[読みたい論文] ニッケル触媒下でアルケニルトリフラートからアルケニルハライドを合成します。
エノールトリフラートという呼び方は初耳かも。
Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58 (42), 14901−14905.

[読みたい論文] 金触媒下でのヨウ化アリールのアミノ化
Buchwald−Hartwigアミノ化より有利な点とは。
Org. Lett. 2019, 21 (19), 8101−8105.

[読みたい論文] ねじれたでかいアミドの炭素−窒素結合切断を経るSuzuki−Miyauraカップリング
ねじれればねじれるほどに速くなる。
Org. Lett. 2019, 21 (19), 7976−7981.

[読みたい論文] なぜかラジカル反応で進行するアミド交換反応
KOtBuが絡むと色々ややこしい。
Org. Lett. 2019, 21 (17), 6690−6694.

[読みたい論文] 温和な条件下で進むケトンのα-アリール化
Pd触媒とホスフィンイリド配位子を使います。
Org. Lett. 2019, 21 (18), 7558−7562.

[読みたい論文] テトラビニルアレン
いびき防止テープ。
Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58 (40), 14573−14577.

[読みたい論文] シレン(Si=C)のZ/E異性化の途中でシリレンになっていた
Beckmann転位と似ているような似ていないような。
Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58 (40), 14524−14528.

[読みたい論文] 含窒素アレーンの2-アリル化、しかも不斉反応
どこのステップでキラル炭素ができるんだろ。
Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58 (40), 14104−14109.

 

注目のWebコンテンツ

Brexitの状況 (10/15)
(化学業界の話題)
http://blog.knak.jp/2019/10/br...

デジタル
(村井君のブログ)
http://murai-kun.cocolog-nifty...

講談社 研究者支援クラウドファンディング開始
(化学工業日報)
https://www.chemicaldaily.co.j...

星山工業・ビードローン、燃料電池ドローン開発 構造材に高強度CFRP
(日刊工業新聞)
https://www.nikkan.co.jp/artic...

素材産業、研究開発投資を拡大 車・スマホ進化に対応
(日刊工業新聞)
https://www.nikkan.co.jp/space...

最古のオーロラ様現象記録(紀元前660年前後)の発見 −アッシリア占星術レポートの解析−
(京都大学)
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/re...
海老原祐輔生存圏研究所准教授、三津間康幸筑波大学助教、早川尚志大阪大学・日本学術振興会特別研究員(兼・英国科学技術施設研究会議・ラザフォード・アップルトン研究所客員研究員)、三宅芙沙名古屋大学准教授の研究グループは、紀元前8世紀から紀元前7世紀に楔形文字、アッカド語で粘土板に記されたアッシリア(現・イラク北部)占星術レポートを解析し、近代観測との比較検討の上で、オーロラ様現象の記録を3点同定しました…

論文始める
(ある女性研究者の日記)
https://sunnily.exblog.jp/3083...

新しい炎症制御機構の発見〜MIB2は脱ユビキチン化酵素のCYLDを分解することで炎症を促進する〜
(愛媛大学)
https://www.ehime-u.ac.jp/data...
愛媛大学を主としたチームは、E3リガーゼMIB2が脱ユビキチン化酵素CYLDを分解することにより、炎症を促進することを見出した…

未踏のナノスケール半導体を開拓〜安全なBi元素を既存の半導体ナノワイヤ材料に導入することで特異な構造と特性を持つ新ナノスケール材料を実現〜
(愛媛大学)
https://www.ehime-u.ac.jp/data...
愛媛大学の石川史太郎准教授らの研究グループは、未開拓の半導体ナノ材料作製に成功しました…

ヒトT細胞白血病ウイルスに関する 網羅的かつ高精度な新規ウイルス配列情報検出方法を確立 〜同法を活用し日本人感染者約 100 例の網羅的ウイルス情報を取得〜
(熊本大学)
https://www.kumamoto-u.ac.jp/d...
ヒトレトロウイルス学共同研究センター熊本大学キャンパスの佐藤賢文教授は、佐賀大学勝屋弘雄助教、鹿児島大学宇都宮與客員教授、聖マリアンナ医科大学山野嘉久教授らと共同で、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)に感染した細胞DNAに存在するウイルス情報を網羅的かつ高精度に取得する、新しい解析方法を確立しました…

有機太陽電池の電圧損失の抑制に成功(平本グループ・伊澤助教ら)
(分子科学研究所)
https://www.ims.ac.jp/news/201...
分子科学研究所の、伊澤誠一郎助教、平本昌宏教授らの研究グループは、有機太陽電池の電圧損失を高効率無機太陽電池と同等の水準まで大幅に抑制することに成功しました…

バイオ医薬品の品質管理に向けた「冬虫夏草」由来の糖鎖切断酵素のメカニズム解明 ~バイオ医薬品の性能向上や品質管理に役立つような研究開発に期待~
(九州大学)
http://www.kyushu-u.ac.jp/f/37...
ENGase(エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ;は糖タンパク質のAsn残基に結合したN-結合型糖鎖(の根元に近い部分を切断して、糖鎖をタンパク質から切り離す(遊離する)酵素です…

3Dプリンタによる超複雑形状シリカガラスの開発に成功! ~超複雑形状、オンデマンドでの石英ガラス製品が作製可能に~
(九州大学)
http://www.kyushu-u.ac.jp/f/37...
九州大学グローバルイノベーションセンター藤野茂教授の研究グループは、加工が難しく単純な形状しか作製できなかったシリカガラスを、3Dプリンタにより超複雑形状で作製する技術を開発しました…

寄生蜂が宿主を独占する戦略〜ライバルの寄生蜂が出す毒素を認識して攻撃専門の幼虫割合を高める〜
(東京農工大学)
http://www.tuat.ac.jp/outline/...
国立大学法人東京農工大学大学院農学府生物制御科学専攻大野瞳(大学院修士課程修了生)と連合農学研究科坂本卓磨(大学院生博士課程)、農学研究院生物生産科学部門天竺桂弘子准教授と岩渕喜久男名誉教授、ライフサイエンス統合データベースセンターによる研究グループは、寄生蜂のキンウワバトビコバチが、同じ宿主をめぐって競争関係にある他種の寄生蜂が同時に寄生すると、攻撃専門の兵隊幼虫が増加する分子メカニズムの一端を解明しました…

日本の豚農場でウイルス同士のゲノムの組み換え!?ー新しいウイルスが出現していることが明らかにー
(東京農工大学)
http://www.tuat.ac.jp/outline/...
国立大学法人東京農工大学農学部附属国際家畜感染症防疫研究教育センターの水谷哲也教授、今井諒(大学院博士課程)、麻布大学獣医学部の長井誠教授らの研究グループは、日本の豚農場から、豚エンテロウイルスと豚トロウイルスのゲノムの組み換えによって生じた、新しいウイルスを発見しました…

CO2を有効利用するメタン合成試験設備を完成、本格稼働に向けて試運転開始 ―カーボンリサイクル技術の一つであるメタネーション技術の確立を目指す―
(NEDO)
https://www.nedo.go.jp/news/pr...
NEDOは、CO2有効利用技術開発事業に取り組んでおり、国際石油開発帝石(株)、日立造船(株)と共に、二酸化炭素(CO2)と水素からメタンを合成する試験設備を国際石油開発帝石(株)長岡鉱場(新潟県長岡市)の越路原プラント敷地内に完成させました…

東京臨海部における自動運転の実証実験の開始 ―TOKYO発の自動運転社会実現に向けて―
(NEDO)
https://www.nedo.go.jp/news/pr...
内閣府が実施する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」では、交通事故の低減、交通渋滞の削減、交通制約者のモビリティの確保、物流・移動サービスのドライバー不足の改善・コスト低減などの社会的課題の解決への貢献を目指して、自動運転実用化に向け産学官共同で取り組むべき共通課題(協調領域)の研究開発を推進しており、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、その管理法人を務めています…

中型自動運転バスによる実証評価に係るバス運行事業者の選定結果
(産業技術総合研究所)
https://www.aist.go.jp/aist_j/...
国立研究開発法人産業技術総合研究所【理事長中鉢良治】(以下「産総研」という)情報・人間工学領域端末交通システム研究ラボ加藤晋研究ラボ長らは、2019年6月26日から8月23日まで公募をしていた「中型自動運転バス公道実証実験事業(2019年度-2020年度)を行うバス運行事業者」を選定しましたので、結果を公表します…

ペロブスカイトナノ粒子LEDはなぜ低効率か ブリンキングによる消光時間の増加が原因と究明
(東京工業大学)
https://www.titech.ac.jp/news/...
東京工業大学物質理工学院材料系のマーティン・バッハ教授らの研究グループは、単一粒子分光計測を用いて、ペロブスカイト[用語2]ナノ粒子[用語3]を発光材料として用いた発光ダイオード(LED)[用語4]における低い電光変換効率[用語5]の原因を解明した…

カルシウム〜Ca 身体の動きを決めるカルシウム
(高純度化学研究所)
https://www.kojundo.blog/nutri...

金属から金属酸化物へのライブ中継
(沖縄科学技術大学院大学)
https://www.oist.jp/ja/news-ce...
触媒は、表面の電荷とその電荷の移動の仕方によってその作用が影響されます…


学問・科学ランキング 科学ランキング 自然科学ランキング 化学ランキング