Archive|Nanoniele|MakiokaFufudo

 

[読みたい論文] 求電子置換型の酸クロリドとアルケンの反応です

Viewed: 02:34:19 in July 6, 2025

Posted: November 6, 2019
[有機化学] [ブログ]

Acylation of Alkenes with the Aid of AlCl3 and 2,6-Dibromopyridine (Tanaka, Shinya; Kunisawa, Tsukasa; Yoshii, Yuji; Hattori, Tetsutaro)
Org. Lett. 2019, 21 (21), 8509−8513.

Keywords: Friedel-Crafts acylation; Al; 2,6-Dibromopyridine; Hattori, Tetsutaro


Graphical Abstractの通り、アルケンのFriedel−Crafts型アシル化反応について報告している論文のようです。形式的にはこの反応で塩化水素が出てくるわけですが、そいつを置換ピリジン塩基で捕捉しているわけですね。ただ、ピリジンにはルイス塩基性もあって塩化アルミニウムとくっつくと都合が悪いので、ピリジン骨格に置換基をつけてそれを防ごう、と(多分ですが)。なるほど。

塩化アルミニウム触媒下でのFriedel−Craftsアシル化反応の宿命には抗えないようでして、塩化アルミニウムは反応に使用する酸塩化物に対して過剰量使っている模様。過剰量使用していてもそいつがなければ反応が進まないのであればそいつは触媒なんですよね(このことを現役時代のかなりの期間忘れてました)。それはさておきこの種の反応で「触媒量」ですむルイス酸はいくつかあるはずで、そういったやつでも、つまり、塩化アルミニウム以外のルイス酸を試したのか知りたいので、読みたい論文に追加しました。

他の「Friedel−Craftsアシル化反応の宿命」と言えば副反応。アルケンの異性化や、脱プロトンを伴う場合はどこのプロトンが、とか、色々あり、実際にこの論文でも下の反応が検討されていますが、Supporting Informationを見ると塩化アルミニウムやピリジン化合物を選べばそれぞれの生成物をうまく作り分けることができるようで、なるほどなと感心しました。


あとですが、1H NMRスペクトルのシャープさにしびれました。600MHzで測定して60MHzレベルのスペクトルを載せる論文がちらほらある中、久しぶりに感動。フーリエ変換時の設定もあるのかもしれませんが。

この記事を書いた人

「牧岡ふうふ堂」オーナー。博士(工学)。
酒都圏在住。
某地方の国立系工業大学でアシスタントをしていました。 専門は有機反応・金属錯体(主に希土類)・π共役系。
twitterアカウントは@makiokafufudo(お仕事用)、@ymakioka(個人用)です。

 

 

計算終わりました

 

あわせてどうぞ

2019年の記事一覧
お仕事関係の記事のリストです(2019年)。

読みたい論文シリーズ− 2019年4Q
読みたいけと読んでいない論文を、構造式を描きながら紹介します(2019年10〜12月)。

 

[読みたい論文] カルベンがアレーンの芳香族性を破壊してシクロプロパン骨格になります
金属触媒なし、可視光下で進みます。
Org. Lett. 2019, 21 (21), 8814−8818.

[読みたい論文] クロロシランも金属触媒も使わずにベンゼン環炭素−ケイ素結合を形成します。
ビフェニル化合物とヒドロシランからのシラフルオレン合成。
Chem. Commun. 2019, 55 (88), 13303−13306.

[読みたい論文] イミダゾリウム塩から超リッチな化合物を合成します。
電子供与力のとても高い含窒素π共役系。
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141 (43), 17112−17116.

[読みたい論文] 強塩基を使わない末端アルキンと有機ハライドのクロスカップリング
ホウ素は使われていません。
Chem. Commun. 2019, 55 (87), 13070−13073.

[読みたい論文] アレーンの特定の位置の炭素−水素結合を炭素−酸素結合に変換します。
でっかいスルホニウム塩経由です。
Angew Chem. Int. Ed. 2019, 58 (45), 16161−16166.

[読みたい論文] 芳香環の芳香族性をぶっ壊してエーテル結合とアミン結合を作ります。
可視光照射下での[4+2]環化付加。
Angew Chem. Int. Ed. 2019, 58 (44), 15762−15766.

[読みたい論文] Pummerer反応を介してベンゾチオフェン骨格を形成します
メチル基はどこへ?
Angew Chem. Int. Ed. 2019, 58 (44), 15675−15679.

[読みたい論文] ランタン反応剤とハロゲン化ビフェニルでランタン−炭素結合を2つ作ります
クラシックなランタンの化学を新しい反応剤で。
Angew Chem. Int. Ed. 2019, 58 (44), 15631−15635.

[読みたい論文] アシルシランとピナコールボランの反応をカルベン経由で
「カルベン」をどうやって確認したんだろう。
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141 (41), 16227−16231.

[読みたい論文] ケトンのα−炭素と芳香環とかをアルケンの両方の炭素にくっつけます。
ニッケルを使用していますが真の触媒が気になります。
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141 (41), 16249−16254.

 

注目のWebコンテンツ

富士フイルムHD、富士ゼロックスを完全子会社化 米ゼロックス買収は断念
(日刊工業新聞)
https://www.nikkan.co.jp/space...

東京モーターショー閉幕、来場130万人 目標大幅超え
(日刊工業新聞)
https://www.nikkan.co.jp/space...

電業社機械製作所、エネルギー回収装置受注 RO膜法海水淡水化プラント向け
(日刊工業新聞)
https://www.nikkan.co.jp/artic...

超早期の肺転移病巣では肺細動脈が腫瘍細胞で閉塞 −新たな薬剤送達法の開発の必要性を示唆−
(東北大学)
https://www.tohoku.ac.jp/japan...
主要臓器に発生したがんが,血管あるいはリンパ管を介して肺に転移したものを転移性肺がん、あるいは、肺転移と呼びます…

デュアルコム分光法を利用した磁気光学効果測定装置を開発 〜偏光・分光測定や材料開発の新ツールの実用化に大きく前進〜
(JST)
https://www.jst.go.jp/pr/annou...
JST戦略的創造研究推進事業において、ERATO美濃島知的光シンセサイザプロジェクトの電気通信大学の美濃島薫教授とネオアーク株式会社の波多野智取締役らは、デュアルコム分光法を利用することにより、磁気光学効果測定装置の性能を従来に比べて大幅に向上させることに成功しました…

高増殖性の海洋ラン藻でアスタキサンチンの効率的な生産技術を開発 〜ラン藻を利用した物質生産の実用化へ大きな一歩〜
(神戸大学)
https://www.kobe-u.ac.jp/resea...
神戸大学先端バイオ工学研究センターの蓮沼誠久教授の研究グループは、高い増殖能を有する海洋性ラン藻Synechococcussp.PCC7002に遺伝子導入を施し、光と水とCO2からアスタキサンチンを高生産する技術を開発しました…

「ARID1A欠失は胆管癌の悪性化を促し、ヒストン修飾を介して幹細胞遺伝子の発現亢進に働く」 ― 肝内胆管癌治療薬の新しい標的を発見 ―
(東京医科歯科大学)
http://www.tmd.ac.jp/archive-t...
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子腫瘍医学分野の田中真二教授、秋山好光講師、島田周助教、吉野潤大学院生の研究グループは、同ウイルス制御学の山岡昇司教授、同肝胆膵外科学分野の田邉稔教授との共同研究により、胆管癌においてARID1Aの欠失が、幹細胞遺伝子のALDH1A1の発現を亢進し、胆管癌の悪性度に関連していることを世界で初めて明らかにしました…

ヴァン・アレン帯の電子が加速される場所の特定に成功 -日米の2機の人工衛星と地上観測による国際協調観測-
(九州工業大学)
https://www.kyutech.ac.jp/what...
九州工業大学の寺本万里子助教、名古屋大学の三好由純教授、金沢大学の笠原禎也教授、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の松岡彩子准教授、東尾奈々主任研究開発員および日本、米国、ロシアの研究者からなる共同研究グループは、JAXAが開発した「あらせ」衛星とアメリカ航空宇宙局(NASA)が開発した「VanAllenProbes」衛星によって、宇宙空間の異なる場所で高エネルギー電子と磁場の同時観測を実現し、ヴァン・アレン帯の高エネルギー電子がエネルギーを獲得する場所の特定に初めて成功しました…

電流注入による世界最短波長深紫外レーザー発振に成功 ヘルスケア、計測・解析センシングへの応用を拡大
(名古屋大学)
http://www.nagoya-u.ac.jp/abou...
名古屋大学未来材料・システム研究所の天野浩教授らの研究グループは、旭化…

有機電子移動化学の新展開 電子の移動を間接的に「見る」ことに成功
(東京農工大学)
http://www.tuat.ac.jp/outline/...
東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の岡田洋平助教、神谷秀博教授、ならびに同大学院生物システム応用科学府生物機能システム科学専攻の前田尚也(博士後期課程2年)は「電子」の移動を調べる新しい手法を開発しました…

特許資産規模ランキング2019、トップ3は富士フイルム、三菱ケミカル、住友化学
(Chem-Station)
https://www.chem-station.com/c...

エタノールの血中濃度とそのリスク
(高純度化学研究所)
https://www.kojundo.blog/legal...


学問・科学ランキング 科学ランキング 自然科学ランキング 化学ランキング