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[読みたい論文] ランタン触媒下でのエステルのピナコールボラン還元

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Posted: February 14, 2019

[Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58 (8), 2505−2509] Interconverting Lanthanum Hydride and Borohydride Catalysts for C=O Reduction and C−O Bond Cleavage (Patnaik, Smita; Sadow, Aaron D.)

Keywords: σ-bond metathesis; HBPin; Tishchenko reaction; turnover number; Sadow, Aaron D.

ランタン触媒下でのエステルとピナコールボランの反応。アルコキシボランが生成します。ターンオーバー数1万。


反応に使用するエステル、実はアルデヒドからのTishchenko反応で得られるものでして、だったらアルデヒドからスタートしればいいじゃんとか言う話になりそうですが、それについては置いときます。

反応機構は、希土類金属/ヒドロなんちゃらでよく起きるσ結合メタセシスをうまく組み合わせたものです。d-ブロック遷移金属触媒を扱い慣れている人にはちょっと違和感のある機構かもしれませんが、希土類金属では還元的脱離/β-水素脱離などはなかなか起こらないのですよね。価数の変化を伴う触媒反応といえば、1電子還元がメジャーです(最近は論文を見かけませんが)。


Supporting Informationを見る限り、反応の速度論的考察も論文中でなされている模様です。

んで、「17種類もある希土類の中でなんでランタンなのか?」ですが、希土類の中でランタンが一番イオン半径が長いからと言うのが理由の一つ。イオン半径が短すぎると、中心金属周りが混み合ってσ結合メタセシスができなくなる恐れがあるんですよね。この論文で使われているランタン化合物が、La[N(SiMe3)2)]3ではなくてLa[(N(SiHMe2)2]3であることも、そういった理由があるのかもしれません。ランタン化合物中のSi−H結合があるのに化合物自体が安定なことからも、反応場の設計がσ結合メタセシス進行の重要さがわかります。

もう一つの理由が、反応の追跡や速度論的考察を行うのに都合が良いこと。希土類の価数にもよるのですが、安定な3価で反磁性のものといえば、スカンジウム、イットリウム、ランタン、ルテチウム。3価のランタン触媒を使う反応は、NMRで追跡することが容易なのです。常磁性の希土類だと、シグナルがデロデロになったりケミカルシフトがまともじゃなかったりて大変なのです。

ちなみにですが、2価のイッテルビウムもNMR測定が楽です。ただし、空気に触れるとあっさりと常磁性の3価になってしまいます。私も何度泣かされたか(笑。

反応機構は要旨からも大体理解できそうですが、官能基耐性など反応の適用範囲を知りたいので、読みたい論文に追加です。

この記事を書いた人

「牧岡ふうふ堂」オーナー。博士(工学)。
酒都圏在住。
某地方の国立系工業大学でアシスタントをしていました。 専門は有機反応・金属錯体(主に希土類)・π共役系。
twitterアカウントは@makiokafufudo(お仕事用)、@ymakioka(個人用)です。

 

 

きょうのどうぶつ

実は正面から見ると情けない顔のキジトラ。

 

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